インターネットの壁

安部公房「壁」のはじまりは衝撃的だった。

壁 (新潮文庫)

壁 (新潮文庫)

ある朝、主人公は自分の名前がなくなっていることに気づく。どうしても自分の名前が思い出せない。思い出せないまま会社に出勤すると、そこには既に「自分」がいて仕事をしていた。それは確かに自分なのだが、しかしそれは、主人公の名刺の形をしていたのだった。かくして主人公は、自分の分身たる「名刺」と決別し、すなわち自分の名前とも肩書きとも決別し、不思議な旅へと向かうのだった。

たしかこんな感じだったと思う。うろ覚えで書いているので間違っているかも。

何故この主人公は、肩書きと同時に名前までも失わなくてはならなかったのか。それは、日本社会においては肩書きと名前は切り離せないものだからだろうか。

梅田氏は「はてなの取締役の立場を離れて」発言を試みたが、そこには批判が集中した。肩書きと名前は切り離せなかったのだ。「個」の時代であるはずなのに、「個」には「組織」が粘着し、決して離れることがない。

日本のインターネットは、匿名が多いといわれる。みんな、肩書きを外すために名前も外してしまったのだろう。

インターネットの壁の向こうは、名前のない世界。そこではどんな世界が繰り広げられるのか。うーん、残念ながら「壁」の結末は覚えていない。もう一度読み直してみようかな。