コンセプト・アウト/デマンド・インは「市場開発」だ!(^o^)

市場は開発するものだ

要求開発アライアンスのhttp://www.openthology.org/manifesto.htmにこう書かれている。

情報システムに対する要求は、あらかじめ存在しているものではなく、ビジネス価値にもとづいて「開発」されるべきものである。

これと同様のことが市場にも言えるのではないか。つまり

市場とは調査するものではなく、開発(醸成)されるべきものである

と言えないだろうか。これは平鍋さんによる記事「連載 Web 2.0時代のソフトウエア開発手法」を読んで感じたこと。以下、この記事から引用。

 この手法を,マーケット・イン,プロダクト・アウトと対比して,私は「コンセプト・アウト/デマンド・イン」と呼びたい。これは,製品開発を「製品をメディアとする,市場と企業の対話」ととらえる考え方である。こうすることで,スティッキー(sticky:固定的)だったニーズ・ナレッジとシーズ・ナレッジが「出会い」,「対話し」,強いコンセプトと市場性を併せ持つ製品を生み出すことができる。

つまり製品開発の段階からどんどん「コンセプト・アウト」して「対話」する「場」を作るのだ。この「場」とはユーザーコミュニティであり、市場そのものに他ならない。製品開発と同時に市場も開発するのである。

Name & Conquer

Divide & Conquer というアプローチがある。分割統治法である。「ややこしい問題は分割してやっつけろ!」というわけだ。要求開発アライアンスの OpenThology における「目的と手段の連鎖」はこれに相当するだろう。

僕はココにちょっと懐疑的。Divide & Conquer はトップダウンなアプローチである。トップにはお客さんがいるわけで、お客さんから開発サイドへの一方通行になりかねない。これではまさに「マーケット・イン」であって、イノベーションが生まれにくいのではないか。もっと開発サイドからの流れをつくるべきなんじゃないか。もちろん要求開発は受託開発が対象だから、それでいいのかもしれないけど。

これに対して Name & Conquer という言葉がある。「名前をつけてやっつけろ!」というわけだ。ソフトウェア開発者なら誰しも「名前」の重要性には気づいていることだろう。適切な名前は適切な機能を生む力を持っている。

ところで「概念」とは何か。先日「要求開発サミット」に参加したときに次の言葉を聞いた。

概念とは名前のあるものである

これにはシビれた。名前のあるものは何でも「概念」、すなわち「コンセプト」なんだ。

平鍋さんはコンセプトアウトしようと言っている。そうすればデマンドが返ってくるはずだと。あるいはそういう場を積極的に作ろうと言っている。これは Divide & Conquer よりは Name & Conquer に近いと思う。

SECIモデル

ユーザーの「要求」は暗黙知だ。ユーザーから厳密な仕様書を提示されることはまずあり得ない。

そして動くソフトウェアは形式知だ。「ソースコード」という形式知で表現されているのだから当然だ。

ソフトウェア開発はこの暗黙知形式知のサイクルとして考えるべきだろう。このナレッジのサイクルとしてSECIモデル*1が有名である。SECIモデルは次の順序で進む。

  1. 共同化 Socialization
  2. 表出化 Externalization
  3. 連結化 Combination
  4. 内面化 Internalization

これに「コンセプト・アウト/デマンド・イン」を当てはめてみよう。

  • 「共同化 → 表出化」 が「デマンド・イン」。コミュニティから要求を嗅ぎ取るプロセス。
  • 「表出化 → 連結化」 が機能開発。機能案を動くソフトウェアとして連結するプロセス。
  • 「連結化 → 内面化」 が「コンセプト・アウト」。開発サイドがリリースしたコンセプトをユーザーが使ってみて感触を得るプロセス。
  • 「内面化 → 共同化」 がユーザーコミュニティによる「場」の形成。感想を伝え合うことによって場が形成される。

SECIモデルを提案した「知識創造企業」では、企業内部のナレッジサイクルを扱っていた。ここで提示したのは企業と市場の対話である。Web2.0はナレッジサイクルを企業の外にまで広げることを可能にするのかもしれない。

(追記)

後で気になって「市場開発」で検索してみたら、既にそういう用語があるのね・・・。→市場開発|マーケティングの言葉

市場開発 market penetration

市場開発とは、アンゾフによって提唱された成長マトリックスによって示される4つの基本戦略のうちのひとつ。現有製品を新たな市場にも投入することで販売量を増やそうという考え方。

うーむ、なぜ "penetration" が「開発」と訳されてしまったのか。

*1:SECIモデルの説明は例えばこちら:SECIモデル(せきもでる) - ITmedia エンタープライズ