変革のボリューム

「社会を一気によくしようとする」試みは必ず失敗する。

変革が好きな人たち - 内田樹の研究室

変革のボリューム、なるものを定義できないか。

そうそう世の中一気に変わることはできない、と思うわけで、これは要するに起こしうる「変革のボリューム」には限界があるってことではないかと。

まず横軸には「変革の影響範囲」をとる。ステークホルダーの数、といってもいいかもしれない。「社会全体の変革」ならばこの横軸の値はものすごく大きくなるわけだ。

そして縦軸には「変革の強度」をとる。これは、その変革がどの程度根本的なものかを表す指標。連続的なわずかな修正ならばこの指標は小さな値をとるし、逆に不連続に根こそぎ変革するならばこの指標は大きくなる。

ここで「変革のボリューム」を次のように定義する。

変革のボリューム = 変革の強度 × 変革の影響範囲

変革のボリュームには限界(上限値)がある。だから、社会全体を変革したいのであればその変革強度は小さく抑えざるを得ないし(左の図)、逆に根本的な変革を起こしたいのであればそれはごく小さな範囲から始めなくてはならない(右の図)。「社会全体を一気に」は不可能なのだ。

キャズム」というマーケティングの本がある。

キャズム

キャズム

この本に次のような言葉があった。(うろ覚えで書いているので正確な引用ではない)

池で一番大きな魚になりたいのであれば、最初は小さな池を選べばよい。

つまり、ハイテク製品をブレイクさせたいのであれば、最初はごく小さな市場から始めなさいと言っているのだ。最初からメインストリーム市場を狙ってはいけない、まずはごくごく小さな市場から始めて一つずつ制覇していけばよい。
概してハイテク製品がもたらす変革というのは、その変革強度が大きいものが多い。そういう変革強度の強い製品が最初からメインストリーム市場で受け入れられることはなく、どうしてもごく小さなニッチ市場からスタートすることになる。つまり、上の右側の図のような変革から開始するわけだ。

人は金儲けが絡むと知恵が働くのか、マーケティングの世界ではこのような戦略が論じられているわけだけれど、社会の変革となるとメディアが正義感ぶって騒ぐばかりだ。この手の変革にも、それをどのような戦略で実現するかみたいな議論がもっとあっても良いのではないかと思う。