そのソフトの廉価版が出ない理由
ときどき人からこんなことを言われる。
「〇〇ってソフト、欲しいんだけど高いんだよね〜。もっと機能は絞ってもいいからさ〜、お宅で安いの作ってよ〜。」
こんなとき私の受け答えはいつも歯切れが悪い。
「え、あ、うーん・・・貴重な意見ありがとうございます・・・」
〇〇に入るのは3DCGとか3DCAD関係のソフトで、大抵はン百万というお値段のもの。
こう言われることもある。
「〇〇ってソフト、高いんだよね〜。もっと機能を絞った廉価版を出してくれればいいのにねぇ?」
やっぱり私の受け答えは歯切れが悪い。
「え、ええまあ、そうですね・・・」
廉価版はね、たぶん出ないと思うのですよ。残念ながら。
ソフトウェアというのは、コピーにかかるコストはゼロ。つまり製造コストはゼロ。
当然ですね。
つまり当然ながら、機能を削ったところで製造コストは変わらない。
しかしこの当然のことが、一般的な直観とはズレるところがあるのだろう。
「こんな機能は要らないからさ〜、もっと安くしてよ」直観的にそう思うのだろう。気持ちは分かる。
でもその機能は、誰かが必要としているから付いているのである。きっとその誰かが営業マンにこう言ったのだ。
「この機能さえ付けばウチは買うよ」
そして、開発会社ではきっとこんな会議が行われたのだ。
「この機能の開発コストは幾らで、この機能追加によって増加が見込めるユーザー数はどのくらいだ?」
つまり機能追加に見合うマーケットの増大が見込めるならば、機能は追加される。
ということは、だ。
その機能追加のコストを負担しているのは新規ユーザーだ。
既存のユーザーはその機能追加のコストは何も負担していないのだ。
もちろんこれは目論見通りに新規ユーザーが獲得できれば、の話だが。
仮に私が自社で〇〇ソフトの廉価版を開発すると想定してみよう。「不要な」機能を仕様から削ることで開発コストを抑え、〇〇ソフトと渡り合うことは果たして可能なのだろうか。
うーん、無理、と言わざるを得ない。
その「不要な」機能は誰かにとっては必要なものだ。つまりその機能を削ればその分だけ市場は小さくなる。だから仮にビジネスが最大限にうまく進んで守備範囲の市場では完全に〇〇ソフトを駆逐したとしても、機能削減によって小さくなった市場までしか支配できない。つまりソフトの価格は結局もとのソフトと同程度の価格にならざるを得ないだろう。
もちろん私や開発チームが圧倒的に天才で、圧倒的に低コストで開発ができてしまうのなら話は別だけどね・・・もちろん私がそんな天才であるはずもなく、むしろ海外の開発者のほうが天才的な奴がいそうだ。や、これは単にイメージでビビってるだけかもしれないが・・・。
では今度は、〇〇ソフトの開発会社が機能ダウンした廉価版をリリースすると想定してみよう。
その廉価版は自社の既存市場を確実に、喰う。
問題はそれ以上に新市場が開けるかどうか。価格を抑えることで、既存市場が喰われる分以上に新しい市場が広がるのかどうか。
・・・3D関係のソフトウェアの市場では、ちょっと考えにくいと思う。
ならばどんなストーリーなら考えられるだろうか。
例えば、キネクトだ。XBOX用のモーションキャプチャだが、USBでPCに接続すれば Windows でも利用できる。通常のモーションキャプチャと比較したら破壊的に安い。
もちろんプロの現場では今まで通りプロ用のモーションキャプチャが使われ続けるだろうと思う。
でもキネクトのあの安さは、モーションキャプチャとは縁もゆかりもなかった人たちにリーチする可能性を秘めている。全く新しい市場が拓ける可能性がある。こういった破壊的なデバイスに応じて破壊的な価格のソフトウェアを開発するのは面白そうだ。イノベータのジレンマを突くことが出来るかもしれない。
(・・・などと考えているけど今のところキネクトを利用したプロダクトの良いアイデアが思いつかない(涙))
まあ要するに、新しいソフトというのはなんらかの新しい評価軸を提案するものじゃないとダメなのでしょう。ソフトを作るというのは市場を作るということ。ソフトの数だけ市場があるということ。極論を言えば。
悩みは尽きない・・・、ホントに。