ゲリラ戦をやろう
以前どなたかのブログで紹介されていたこの本、個人的に大当たり。実に面白く読めた。
マーケティング戦争 全米No.1マーケターが教える、勝つための4つの戦術
- 作者: アル・ライズ,ジャック・トラウト,酒井泰介
- 出版社/メーカー: 翔泳社
- 発売日: 2007/04/20
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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マーケティングを戦争になぞらえる、というのはそれ程斬新なアイディアとは思えなかった。しかし、僕が思わず引き込まれたのは次の一文だった。
マーケティングの戦場は心の中にある。
マーケティング戦争は見込み客の頭の中で行われるのだ。消費者の頭に陣取り、敵の陣地を脅かし、生き抜くのだ。戦場は決して、市場のシェアを示した円グラフではない。
ということは、見方を変えれば僕の頭を戦場にして色んな企業が戦いを繰り広げているといえる。例えばdocomoとsoftbankは僕の頭の中でどんなポジションをとっているのだろうか。例えばハイボールは、どんな戦術で誰の陣地を脅かしたのだろうか。コンビニで何気なく手に取ったペットボトル飲料は、僕の心どんな場所を占めていたのだろうか。そんなことを考え始めると面白い。
余談だけど、以前聞いた話。ある加工機器の営業がものづくり系の中小企業に売り込みをかけていた。その時、相手の社長が天秤に掛けていたのはライバル企業の加工機ではなかったという。なんと、ベンツだったそうである。面白いもので加工機とベンツも同じ財布を奪い合えば競合関係になるのだ。このとき社長の頭の中ではどんなせめぎ合いがあったのであろうか。(残念ながら僕は、この社長は結局どちらを買ったのか、事の顛末を知らない。)
もう一つ印象的だった一文を紹介しよう。
戦略は戦術に即しているべきである。
注意して読んで欲しい。戦術は戦略に即しているべきとは書かれていない。戦略が戦術に即するべきと書かれている。
この本はマーケティングの本なので、戦術というのは広告を指している。具体的な広告のやり方を知らぬものは優れたマーケティング戦略を生み出すことは出来ない、と本書は述べている。
僕はもちろん広告のやり方なんて全く知らないので、本書の意見の真偽を判断するような知識も経験もない。しかし強引にソフトウェア開発に我田引水して考えれば、「設計(=戦略)はプログラミング技法(=戦術)に即しているべきである」ということであろう。これは僕の経験に照らして十分に得心が行く意見である。実装技術に長けた者でなければ良い設計は出来ないのだ。
「なるほど〜」と感心している僕に追い打ちをかけるように次の一文が登場する。
戦略は月並みな戦術を許容する。
一瞬、先程の一文と矛盾してるじゃないかと思った。しかし良く考えればこの二つは矛盾しない。何故なら「設計は実装技術に即しているべきである」と「設計は月並みな実装を許容する」は矛盾しないからだ。
本書に拠れば、僕が採るべき戦略は間違いなく「ゲリラ戦」である。ゲリラ戦の目的は、敵陣に攻めこんで相手を叩き潰すことではない。市場の隙間に身の丈に合った居場所を見つけ、そこに攻め込む者がいればこれを撃退し自分の陣を守り切ることである。言ってみれば、生き延びれば勝ちということである。
「もし自分の業界に Google が参入してきたらどうしよう?」と思ったことはないだろうか。圧倒的な巨人が参入してきたら自社のような弱小企業はあっという間に吹き飛んでしまうのではないか、と不安を覚えたことはないだろうか。日本経済の先行きに関する識者(?)の意見を目にするたびに、グローバル経済とやらの波に飲み込まれて日本丸は沈没する運命かと恐怖したことはないだろうか。
本書が解説する「ゲリラ戦」は、そんな不安に対して「大丈夫、生き延びる道はある」と語りかけているように感じられた。ゲリラ戦の極意とは戦いを自分に有利な局地戦に持ち込むことであり、グローバル経済などといっても結局必要なのは新しいローカリティの発見なのだと思う。地理的な制約とは違った切り口でのローカリティを発見し、そこに自分の陣を張ることが必要なのだろう。
さあ、ゲリラ戦をやろう!