テクノロジかテクニックか

テクノロジはモノに宿る。テクニックは人に宿る。とどこかで読んだ。ふむ、確かにそうだ。

3Dモデリングという行為はテクノロジとテクニックの両方に支えられている。モデリングツールはテクノロジ、それを操るモデラーさんの技量はテクニック。

これは別に3Dモデリングに限らない。多くの物事がテクノロジとテクニックの両方に支えられて成り立っている。

さて、思うに「企業」という組織はテクニックよりもテクノロジを好む。大きな企業ほどそうじゃあるまいか。なぜなら、テクノロジーを使えば誰がやっても同じアウトプットが出せるようになるからだ。逆に従業員のテクニックに頼れば、その技量は人によって違うわけだから、出来上がるアウトプットの品質も個々人に依存するようになってしまう。これは企業という組織からすると好ましいことではない。企業としては品質を平準化したい。そのためにテクノロジを活用する。

企業相手に仕事をしていると、「自動化」「オートメーション」といった言葉に頻繁に出くわす。彼らはテクノロジを利用して仕事をどんどん自動化したいのだ。僕も何度か「これこれの作業を自動化する機能が欲しい」と依頼されたことがある。

自動化の目的は「効率化」「平準化」「標準化」「形式知化」といった感じだと思う。自動化するということは、とある従業員だけが身につけていた身体知を形式知に変換することになる。つまり「テクニック」を「テクノロジ」に変換する。こうすることで知が従業員個人の所有物から企業組織の所有物に変わる。こうして他の誰かがやっても同じ品質が得られるようになる。


しかし、例えばコンシューマ市場のような、裾野が広くて個人の裁量で購入されるような市場は違うんじゃないかと思う。思考実験として、仮に3D CADやCGモデラーのような3Dモデリングツールがコンシューマや個人クリエータにもっと利用される日が来るとしよう。そういった個人ユーザーはどういったテイストのモデリングツールを好むだろうか。

彼らは効率にも自動化にも興味はないはずだ。そうではなくて、彼らは3Dモデリングという行為を楽しむはずだ。そしてコミュニティの中で互いの作品を見せ合う。交換する。そして、ワザを競う。

つまり、彼らはあまりテクノロジには興味がない。コンシューマ市場で大上段にテクノロジを振りかざしても誰も食いつかない。楽しむためにやっているのにそれを自動化されても意味がないのだ。スーパーマリオを自動でクリアするテクノロジを渡されたってゲームユーザーはちっとも嬉しくないわけよ。

そう、TVゲームの世界が象徴的。確かにTVゲームはテクノロジで出来ている。だけどそのテクノロジ自体を売り物にしちゃダメなんだと思う。だってゲームユーザーはテクノロジには興味はないのだから。そうではなく、そのゲームで試される自分のテクニックを楽しみたいのだ。


僕は今まで、企業相手の仕事ばかりをしてきている。明らかにテクノロジを売っている。そこではお客さんのテクニックをテクノロジで代替させることが使命だ。

こういう仕事で培ってきた思考回路を、そのままコンシューマ市場に持ち込んだら間違いなくコケるだろうな、と思う。そこではテクノロジは巧妙に隠して、ユーザーが自身のテクニックを楽しめるような遊びを提供しなくてはならないんだと思う。