外国語学習の科学

これは面白かった。

外国語学習の科学―第二言語習得論とは何か (岩波新書)

外国語学習の科学―第二言語習得論とは何か (岩波新書)

目次を紹介しておこう。

  1. 母語を基礎に外国語は習得される
  2. なぜ子どもはことばが習得できるのか −「臨界期仮説」を考える
  3. どんな学習者が外国語学習に成功するか −個人差と動機づけの問題
  4. 国語学習のメカニズム −言語はルールでは割り切れない
  5. 外国語を身につけるために −第二言語習得論の成果をどう生かすか
  6. 効果的な外国語学習法

僕はちまちまと英語の勉強を続けているところなので、科学的に効果が高いと分かっている学習方法があるならぜひ参考にしたいな、という視点でこの本を読んだ。数ある英語の学習教材の中には「科学」っぽくその効果を謳っているものがたくさんあるけれど、どれも結局はその教材の宣伝文句であるからして胡散臭かったりインチキ臭かったりする。いったい何がホントで何がウソなんだ!?って感じ。だから、中立の立場で客観的かつ科学的に外国語学習を論じているものを読んでみたかったのだ。

全体の感想としては、これは半分予想通りなのだけれど、「科学」という表題には若干の苦しさを感じた。苦しさというか、なんというのかな、「科学」という言葉につい期待しがちな「切れ味の鋭さ」は感じられなかった。これは当然のことで、外国語に限らず学習というものは様々な要因の積み重ねであるからして、スッパリと単純な原理で説明しきれるはずがない。

例えば、本書では様々な研究成果が紹介されているのだが、その多くは統計的な手法に頼ったものとなっている。つまり簡単にいえば、ある学習法が効果的かどうかを判定するために、それ以外の学習環境を出来るだけ一定にそろえて生徒の外国語の習熟度を調査する、というものだ。しかし外国語学習には家庭環境や社会環境なども複雑に関係している可能性があり、そこまで条件を一定にそろえた実験というのはほぼ不可能であるため、その結論はイマイチ歯切れが悪い。したがって、「効果的な学習法はこれだ!」という歯切れ良い結論を期待していると、本書にはもどかしさを感じてしまうだろう。

しかし、その歯切れの悪さこそが、本書に説得力を与えている、と僕は思う。複雑なことは複雑なのであり、分からないことは分からない、という冷静かつ科学的な姿勢が本書には徹底されており、それがゆえに本書は信頼できると感じる。逆にいえば、数ある英語学習教材の謳い文句は歯切れが良すぎて信用できないのだ。

ではここで、僕が個人的に印象に残った内容を紹介してみよう。それは次の2つだ。

  • 記憶力(丸暗記)が大事
  • インプット仮説

記憶力(丸暗記)が大事

これ、僕としては結構ショック。僕は丸暗記が苦手だからなー。この根拠となっているのは、

  • ある程度以上の年齢から外国語学習を始めて
  • ネイティブスピーカー並みに外国語を身につけた人

に共通する能力を調べたところ、暗記力が高かったということらしい。逆に文法ルールから論理的に文章を組み立てるような能力は目立っていなかったそうで。
ただこの研究は、「ネイティブスピーカー並みに」身につけた人だけを対象とした調査であるので、「そこそこ意思が伝えられれば十分」という学習にも暗記が効果的なのかは不明なのだ。もしかすると、そういった学習者にはむしろ文法ルールがより重要となっている可能性もある。この辺が「歯切れが悪い」と書いたところ。

インプット仮説

これも見ての通り「仮説」。「仮説」に過ぎないのだけれど、それでも衝撃的だった。
これは「外国語学習にはインプット(聞く、読む)のみが必要。アウトプット(話す、書く)は不要。」という仮説だ。そんなバカな、って思うでしょ?
しかし、まれにこういう子どもがいる。ある年齢になるまで一言も喋らない。「ママ」の一言も喋らない。この子は喋れるようになるのかしら、と心配しているとある日突然、意味のある長いセンテンスをいきなり堰を切ったように喋りだすのだ。例えば筆者の知人のお子さんは、最初に喋った言葉が「お母さん、夕日がきれいだね」だったそうである。
こういった子どもは、喋りだすまではひたすらインプットされていただけで、アウトプットは一切していないわけだ。こういった事例が例え少数でも報告されているということは、言語学習には必ずしもアウトプットは必要ないということではないか、というのがこの仮説。
当然ながらこの事例だけでは、成人になってからの外国語学習にもインプット仮説が有効かどうかの論拠にはなっていない。しかしながら、インプット仮説に基づいた外国語学習もいくつか考案され、実際に効果も上げているようなので侮れないのだ。
ただし、予想されるようにこの仮説には異論も多い。その一つは、テレビだけでは子どもは言語を学習できない、という事例だ。両親が聴覚障害者であったためテレビの音声だけで育った子どもの事例が報告されており、通常の子どもに比べて著しく言語能力が劣っていたとのことだ。このことから筆者は、「アウトプットの必要性」を感じながらインプットしないと学習効果が出ないのではないか、と述べている。


・・・と、まあ、他にも印象に残っていることはあるのだが紹介はこの辺で。気になる方は買って読んでみて下さい。自分に合った学習方法を自覚的に組み立てていく際には、参考になることと思う。