泥のように働け、砂のようには働けない

「泥のように働け」って、あれは酷い煽り記事でしたなぁ。ようやく落ち着いてきたようで。


「言葉を慎みたまえ、君は重鎮の前にいるのだ!」
「見ろ!人が泥のようだ!」


などというしょーもないネタを思いついたが、まあ悪ノリはここまでにしておこう。皆さん、ムスカは愛すべきキャラクターですよ。


「泥のように働け」は「馬車馬のように働け」という意味とは違うんじゃないかな。僕は「泥臭く働け」ってことじゃないの?って思った。いきなりスマートに解決しようなんて思い上がるな、暫くは現場でもがいてみろ、ってことでしょう?砂のようにサラサラと仕事が出来るなんて思うな、ってことでしょう?

「泥臭く働け」って上から言われるとちょっと嫌な感じするけどさ、振り返ってみると結局自分もそこそこ泥臭く仕事してきている気がするよ。これから何年経っても、やっぱり泥臭く働いているんじゃないかなぁ、立場は変わっているかもしれないけれど。むしろ、何年経っても泥臭さは失わないようにしないといけない気がする。現場を忘れちゃいけないっていうか。


ちょっと話は飛ぶんだけれど。オブジェクトの発見が必ずクラスの発見より先行するべきですよ。いきなりスマートにクラスが発見できるなんて、思い上がっちゃいけない。まず泥臭くオブジェクトを発見して、それをクラスに昇華させる。リファクタリングする。これが仕事の手順でしょう。

僕はリファクタリングが好きだ。泥臭く、ただ要求を満たすために四苦八苦して書き散らかしたコードを、きれいにまとめて、整理して、ムダを排除して、もう一段階上の抽象的な構造を作り上げる。泥臭い仕事から、何か意味のあるものが抽出できたような達成感を感じる。ま、ちょっと大げさな物言いだけど。

仕事もそうなんじゃないかな。人生もそうなんじゃないかな。最初はオブジェクトと格闘するんだよ。泥と格闘するんだよ。そこから何かキラリと光るものが生まれるんだ。


Joel on Software でジョエル氏が、プログラマの採用基準として次の2つを挙げていた。

  • Smart
  • Get Things Done

僕はこれを読んで思わず膝を打った。いや、ホントに打ったわけじゃないけどね。
泥臭く現場で自ら何かを成し遂げなきゃダメなんだ。それが Get Things Done だ。自分は手を動かさないで人の仕事を偉そうに批評しているだけの人は、要らない。
だけれど一方で、泥臭い仕事の中から美しい構造とか法則とかやり方を抽出するようなスマートさも必要なんだ。泥臭い仕事を泥臭いままにただこなしているだけでは、いつまで経っても泥臭いままで終わってしまう。そうじゃなくて、泥臭い仕事をなんとかスマートにこなす方法を考える。それが出来たら、次の泥臭い仕事に取り組む。またスマートにこなす方法を考える。その繰り返しじゃないかな。


あともうひとつ気になったのは、プログラマは人によって生産性に10倍以上の開きがある云々の辺り。10倍の生産性を出す人には10倍の給料を、ってのは無理だ。そんな人事評価システムは明らかに間違っている。そんなことしたら会社は絶対に潰れる。だいだいその「生産性」ってどう測るのよ?って感じ。

10倍速くコードを書けても、会社への貢献度が10倍になるわけじゃない。

ザ・ゴールを読め。リーンソフトウェア開発を読め。そうすれば分かる。部分最適しても全体のスループットが上がるわけじゃない。チームに一人だけ10倍の生産性を出すプログラマがいても、全体のスループットが上がるわけじゃない。

そこに極端な能力主義成果主義の評価システムを導入したらどうなっちゃうのよ?みんな自分の評価が上がるように行動するようになるんじゃないの。チーム全体としてのスループットなんて忘れてしまうんじゃないの。つまり、部分最適の追求になってしまって、全体のスループットはガタガタになってしまうんじゃないの。そんなことしたら会社はあっという間に潰れてしまうよ。

だから、仕事ではチームワークが重要ってのは、至極真っ当な回答なんじゃないかと。


こう書くと誤解されるかもしれないけれど、僕だって日本のIT業界がこのままでいいと思っているわけじゃないよ。でも、なんだかんだ言ったところで、現状の日本のIT業界でもっとも雇用を生み出しているのは彼ら SIer なんだから、学生との討論相手が SIer になってしまうのはやむを得ないんじゃないかと思う。

それが悔しいなら、僕たち自身がもっと魅力的な会社を作らないといけないね。SIer を幾ら批判したところで、文句言ってるだけじゃ状況は変わらない。彼らが気に食わないのなら、自分がもっと魅力的な会社を作って、少しでも雇用を創出して、少しでも元気な学生たちの受け入れ場所を作ってあげればいい。元気な学生が夢を見れる場所を作ってあげればいい。


僕もぼちぼち頑張ってみるよ。
ま、別に日本のIT業界のために頑張るわけでも、学生のために頑張るわけでもないけどね。