Fire and Motion

Joel on Software を読んで最も印象に残ったのは次の一文だった。

Listen to your customers, not your competitors!

競合他社の動きなんかに惑わされるな、とにかく顧客のニーズに注意を集中せよ、というアドバイスだ。とかく競合製品の機能ばかりが気になってしまう傾向に対して、鋭い警告を発しているように思う。僕はこの一文にとても大きな勇気をもらった。強大な他社を気にかける必要はないのだ。僕は僕の戦いをすればよい。

同様のメッセージを、ジョエル氏が再び "Fire and Motion" というタイトルで発している。

Fire and Motion

I've read a ton of books on competition and strategy, and none of them are as useful as this one simple concept.
By: Joel Spolsky

Published April 2008

Fire and Motion -- Leadership Strategies -- Joel on Software | Inc.com

「俺は山ほど競争やら戦略やらの本を読んできたけれど、このシンプルなコンセプト "Fire and Motion" に勝るものはないね(超訳)」と書かれている。この "Fire and Motion" も既に書籍で書かれていた内容だけれど、今回の記事はより「小さなベンチャー企業」を対象としているようだ。

まず、"Fire and Motion" とはどんな戦略なのか。これは「戦略」というにはあまりにシンプルなのだけれど、シンプルだからこそ強力で応用が利くのだろう。

Here is how it works. You fire at the enemy. That's the fire part. And you move forward at the same time. That's the motion. Get it?
"Fire and Motion" とはこうだ。まず敵を撃つ。これが "fire"。それと同時に前進する。それが "motion"。分かった?

Fire and Motion -- Leadership Strategies -- Joel on Software | Inc.com

敵を撃ち続ければ、敵は伏せるしかない。敵は防戦一方だ。さあ、この隙に攻め込め。これが "Fire and Motion" だ。つまり、撃って撃って撃ちまくれ、そうすれば攻め込む隙が生まれるぞ、というわけだ。

僕たちの業界、つまりソフトウェア開発の業界においては、fire とは機能を追加したり改良したりすることに相当する。ジョエル氏によれば、かつてのマイクロソフトは文句なしにこの作戦の達人だった。例えばデータベースからデータを取得する "official" な方法は少なくとも8種類もあるそうだ。(... they were DbLib, ODBC, RDO, DAO, ADO, OLEDB, ADO.NET, and LINQ -- and I'm sure I've missed some others.)

つまり、かつてのマイクロソフトはひたすらライバル企業に対して fire and motion を仕掛けることで、市場を制圧してきたのだ。しかしここにきて、僕たちは防戦を強いられているマイクロソフトを初めて目の当たりにしている。Googleなどのライバル企業に逆に fire and motion を仕掛けられているのだ。

さて、自分の会社がライバルの fire and motion に対して防戦一方になっていることに気付いたとしよう。ひたすらライバル社の動きに対応することに追われて、自ら設定した課題やゴールに集中できていないとしよう。どうすればよいか。もちろん、一刻も早くこの悪しき循環から脱しなくてはならない。小さい会社であればなおさら、他者の動きに対応している余裕なんてない。でかい相手であれば10倍もの兵力を持っているのだから。

So instead, you have to lure them into a Thermopylae of your own creation, where size doesn't matter.
だから代わりに、相手を自らのテルモピュライに誘い込まなくてはならない。そこは大きさは関係ないのだ。

Fire and Motion -- Leadership Strategies -- Joel on Software | Inc.com

テルモピュライってなんだ?」と思ってググってみた。テルモピュライの戦いという歴史上有名な戦いがあるそうだ。紀元前480年、ギリシャ軍は数で圧倒的に勝るペルシャ軍をテルモピュライの狭い道に誘い込み、周囲を包囲されることを防いで戦いを有利に進めた、ということらしい。

The good news is that this isn't terribly difficult: Instead of paying attention to what your competitors are doing, start reading your customer feedback e-mail personally. ...
嬉しいことにそれはそんなに難しくない。ライバル社が何をしているのか気にかける代わりに、顧客の個人的なフィードバックをメールで読み始めるのだ。・・・

Fire and Motion -- Leadership Strategies -- Joel on Software | Inc.com

A minute spent understanding the competition is a minute not spent listening to customers, potential customers, and near-miss customers, who would be happy to tell you directly what it would take to sell to them. You might even come up with a solution on your own that's better than the one your competitor came up with. That's when you start creating your own fire and motion -- when you innovate.
競合相手の理解に1分かけるということは、すなわちその1分は顧客に耳を傾けていないということだ。潜在的な顧客、あと一歩の顧客が、あなたに直接要望を伝えられれば買ってくれるかもしれないのに。さらには、もしかしたら競合が思いも付かない優れた解決策を思いつくかもしれないのだ。そのときが、あなた自身の fire and motion を始めるときだ。

Fire and Motion -- Leadership Strategies -- Joel on Software | Inc.com

やはり、ジョエル氏からのメッセージには勇気をもらう。僕は僕自身の fire and motion をやればいいのだ。僕自身のお客さんのために。