とあるCADの物語
なにやらクルスさんのところで面白げな小説連載が始まったようです。
・・・
全てはここから始まった。201X年、日本自動車製造会=JA-MA(ジェイマ)は、『JA-MA-CAD ver.1』の無償配布を開始した。JA-MA-CADは当初、複数のCADフォーマットの閲覧が可能なビューワーとして無償配布されたが、配布から1年後には寸法のコントロール、アセンブリのコントロールが可能なver.2へと進化した。これはもうCADそのものではないか?とユーザ気づき出したさらに1年後のver.3の配布時には、・・・
プロローグ、第一章 政治
高騰を続ける原油価格は、世界的な新車需要を低迷させるに十分な脅威となっていた。シナ沿岸部、インド、ロシア等の成長著しい地域へ生産拠点を移した自動車各社にとっても、原油高はあまねくその影を落としつつあり、・・・
第二章 経営
JA-MA-CADは日本自動車製造会OB、及び業界の重鎮達から唾棄すべきものとして猛烈な批判にさらされることになった。彼らにとっても設計プラットフォームの国産化=日の丸CADの実現は悲願であったはずだが、・・・
第三章 JA-MA-CAD誕生
まだ続いてます。いやー、続きが楽しみだ!
ちなみに、
(!注意!)
この物語はフィクションであり、登場する人物・団体・事件などはすべて架空のものです。
だそうなので、念のため。
内容もさることながら、小説形式で理念やビジョンを語る、というのはなかなか良いアイデアだと感心することしきり。僕もそのうち挑戦してみようかな、とは思うものの文才も必要なだけになかなかハードルが高いなとも思いつつ、冬休みが終わればそんなものを書いている時間も無くなっちゃうわけで。
まあ僕が下手な文を書くまでもなく、クルスさんの連載には共感するところが多い。例えばここ。
JA-MA-CADは、単にカタチが作れるCADに過ぎない…こう評され何の革新性も独自性も持たない凡庸なCADシステムとして世に送り出されたが、カタチが作れる、という一点においてCADとしての条件を備えていたこともまた事実だった。
・・・
JA-MA-CADは、後にJA-MA会員に限定してソースコードを公開。JA-MA-CAD開発者の派遣も行われることとなり、国内自動車各社のIT部門に、カスタマイズという新たな業務と予算措置をもたらすこととなった。
・・・
そして何よりカスタマイズ作業の増大は、ソフトウェア技術者たちのモチベーションを喚起し、その矜持を取り戻す具体策としてこの上ない効果を発揮したのである。
これは僕がヒスイに託している思いと重なるところが大きい。ヒスイのようなフレームワークはその役割から考えても本質的に、革新性や独自性においてアピールすることは非常に難しいのであるけれど、それでも「カタチが作れる」という一点においてCADの最下層のレイヤーを担う条件が備わっていることも事実なのだ。クルスさんの小説ではIGES形式に言及しているけれども、僕は「カタチが作れる」最下層はやはりポリゴンだろうと思っていて、だからヒスイはポリゴンをとても重視した設計となっている。
こういった最下層を担うフレームワークとして、何よりも重要なのは「カスタマイズ性」だろうと思う。この点においてもクルスさんの小説はグッと来るものがある。CADと一言でいっても業種・業界ごとに要件は全く異なるのであり、各業種・各業界ごとにアプリケーションを作りこまねばならない。とはいっても、それらアプリケーションを支える基盤がOpenGLやDirectXなどのグラフィックライブラリだけではあまりにも心もとないのだ。アプリケーションとグラフィックライブラリの間にもう一つレイヤーがあっても良いはずであり、そのレイヤーを担うべくしてヒスイを僕は開発している。
ただ・・・、野暮とは知りつつ、ちょいとツッコミを。
「今ある機能を作れって指示だけでしたからね、そんなに難しくなかったですよ。5人で2年かな?もちろん外注さんも沢山使いましたけどね。ええ、参考にしたのはC-Tia(シーティア)ってCADですよ。そのCADの機能をずらっと書き出して、同じ機能を一個々々作っただけです。CADに詳しいプログラマは居ませんでしたから最初は戸惑いましたが、・・・
C-Tia って・・・、やっぱりCAT*A・・・?(いや、勿論架空のCADであることは分かってますがw)
いや、それは絶対そんなに簡単じゃない。
5人で2年?
CADに詳しいプログラマは居ませんでした?
うーん、それはちょっと、無理でしょーッ!?
JA-MA-CADはソースコード公開って書いてあるってことは、ソリッドカーネルも独自ってことだ。ソリッドカーネルを全部自前で開発するってのはね、そりゃもう、それはそれは大変なことで・・・。ソリッドカーネルの開発には人数が沢山いても意味はないんだけど、CADに詳しいプログラマが居なくては絶対に開発できないと思う。相当な形状処理のプロフェッショナルがチームに絶対必要。
ファセッタ(テセレータ)作るのだって、ヒジョーに大変だし。
Undo/Redo のアーキテクチャって、使っているだけの人は当たり前に思うのかもしれないけれど、あれを実現するのってすごく難しい。
サーフェスモデリングの機能だって、フィーチャーベースのモデリング機能だって、膨大な分量があるし、その一つ一つが決して簡単じゃない。
そんなわけで、僕個人の考えとしては、この筋書きで現行CADが新しいCADに移行することは、ちょっと難しいんじゃないかと思っている。正攻法じゃなくて、もうちょっと作戦を練らないとダメなんじゃないか、と。この辺は機会があったら書いてみたいと思う。
・・・と最後に水を差すようなことを書いてしまったけれど、それでも続きがとっても楽しみであることに変わりはないので、どうぞよろしくデス。