オブジェクト倶楽部クリスマスイベント2007

こんな経験はありませんか。
久しぶりに都会から田舎の実家に帰った。ああ、本当に久しぶりだ、散歩がてら幼少の頃の懐かしい思い出が染み付いた町並みを歩いてみよう。ところが、いざ散歩に出かけてみると町はすっかり様変わりしていた。あの懐かしい風景が、今はもう、ない。
もちろん、それが悪いわけではない。時は移ろい、時代は進んでいる。町も変わらなくてはならない。郷愁にとらわれて昔の姿を維持するのではなく、むしろ積極的に新しい時代に向かって変化していくべきだ。ただね、ちょっとだけセンチメンタルな気分になったりして。


オブジェクト倶楽部クリスマスイベント2007 に行ってきたのだけれど、正直に告白しよう、ちょっとそんな気分だったんです。

いや、もちろんね、オブジェクト倶楽部はサイコーに楽しかった。バカでおセンチな期待をした僕がいけなかっただけ。今回のオブジェクト倶楽部のテーマは「オブジェクト指向」へと回帰していて、そこに少しおセンチな期待をしてしまったのだ。
最近のオブジェクト倶楽部は技術よりは「人」にフォーカスが当たっていて、もちろんその方向性は圧倒的に正しいと支持するのだけれど、とはいえ僕も技術者だし、皆がオブジェクト指向について熱く語っていたあの時代を懐かしく思っていたのだ。そんな状況だったので、今回のオブジェクト倶楽部がテーマとして再び「オブジェクト指向」を掲げたことに対して、おセンチで爺くさい期待をしてしまったというわけだ。
でも、あの時代、前世紀末あたりの僕が熱狂したオブジェクト指向は、もうなかった。


僕がパソコンにはじめて触れたのは1996年頃。大学2年のときだ。その前年にウィンドウズ95の発売で世間は熱狂していたようだが、僕にはその意味が分からなかった。MS-DOSという文字を見て、MS-DOM(モビルスーツ・ドム)の間違いじゃないかと、本気で思ったものだった。その翌年、「ともかくパソコンを買え」という先輩の強引なアドバイスに従って、僕は親に金を無心し、パソコンを購入した。
「で、先輩、パソコンって何が出来るんすか?」という僕の拙い質問に、先輩はこう答えた。「コンピュータってのは、プログラミングするためにあるのだ」。僕は「言葉の意味はよく分からんがとにかくすごい自信だ」などと思いつつも先輩に従い、プログラミングを始めることになった。最初に手をつけたのはまさに前世紀の遺物であるQUICK BASIC。そこを皮切りに、C言語、そしてC++へと僕はプログラミングにのめり込んでいった。
それと同期するようにして、時はオブジェクト指向技術の熱狂の時代へと突入していった。僕は当然のように(そう、コーラを飲めばゲップが出るように)、オブジェクト指向に熱中した。その熱狂の中心にいたのは、間違いなくオージス総研のオブジェクトの広場メーリングリストであったと思う。あの頃の僕は、毎晩のように布団に包まりながらGoFデザインパターン本を必死で追いかけ、そのままGoF本を枕にするようにして眠りこけるという生活を繰り返していた。分からないことがあれば oosquare メーリングリストに質問を投げ、ごくたまに神のごとく尊敬していたスゴイ人から返信をもらうと、小躍りするような喜びと興奮を感じていた。
そして、XP-jpのメーリングリストが開設された。開設者は、そう、平鍋さんだ。oosquare に開設の案内メールが流れ、各方面から賞賛の返信があり、それを読んだ僕は「XPの意味は良く分からんがとにかく時代はXPらしい」とコーラを飲めばゲップが出るようにXP-jpにも加入した。
そう、あの頃僕らは、確かに同じ空気を吸っていたんだ。


そこから数年の時が流れ、オブジェクト指向は完全に「キャズム」を超えた。そう、「当たり前」になったのだ。オブジェクト指向ギークの手を離れ、スーツのものとなった。
スーツの手に渡ると、あとは経済学で説明できる世界へと移っていく。需要の大きなところに供給されるようになる。オブジェクト指向も然り、需要の大きなところへと供給されるようになった。
オブジェクト指向エンタープライズのものになったのだ。今回のイベントのセッション「OO厨厨トレイン」でそれを痛感した。OOの歴史ばかりが楽しく懐かしく、OOの今と未来がもう遠いものに感じられてしまった。


僕は今、一人でプログラミングしている。あまりチーム開発というものには縁がない。
僕が作っているのはCADであり、デスクトップアプリケーションだ。今市場が伸びているウェブアプリケーションとは何の関係もない。業務アプリケーションとも違う。
だから、僕にとってはエンタープライズオブジェクト指向はどこか遠い存在でしかない。あの時代、僕の手の中にあったオブジェクト指向は、いまや確実に僕の手の届かないところまで離れてしまい、進化を続けている。
多分、オブジェクト倶楽部のイベントに来ていた人々は、そういった進化の只中にいる人たちだろう。僕の感じたような郷愁に囚われることもなく、ただひたすら前を見て、更にソフトウェア技術を進化させていくのだろう。そんな彼らが、少しまぶしく見えた一日だった。

おまいら、がんがれ。僕は僕で違う道を行こう。