製造業も「ソフトウェア企業」になっていく?

組み込みソフトウェアの話ではないよ。

製造業の世界では「フロントローディング」が進められている。日本語訳すれば「前足加重」だろうか。設計 → 製造 という流れを考えたときに、後工程の製造で問題が発覚して設計に手戻りするのは避けようというものだ。それを実現するために、前工程の「設計」の段階で3次元CADやらCAEやらを利用して後工程の「製造」のことまで考慮してしまおう、ということだ。


実はこの「フロントローディング」を、究極的に実現している産業がある。
ソフトウェア開発業界だ。


僕は「プログラミングとは設計である」という考えを支持する。UMLを描くのばかりが設計じゃないのだ。そう考えると、ソフトウェア開発には「設計工程」しかない。「試作」はコンパイルするだけだし、「製造」はCDに焼くだけだ。
つまり、ソフトウェア開発という仕事は本質的に、究極のフロントローディングを実現しているのだ。これはソフトウェア企業にとっては「当たり前」だから誰もそんなことを声高には言わないけれど。


さて、冒頭で述べたように、製造業はフロントローディングを目指している。それは言い換えれば、ソフトウェア企業に近づこうとしている、ということにならないか。

製造業にとって究極的にフロントローディングが実現した世界というのは、どのような世界だろうか。それは、生産工場が完全に自動化した世界だ。工場にCADデータをインプットすれば、それを自動的に製造してモノが出力される、という究極的に自動化された世界。仮にこの究極の工場が実現したと考えてみよう。そのとき製造業は何をするのか。


ただひたすら、CADデータを作成するのだ。


その世界では、CADデータが「ソースコード」になる。それを自動的に解釈して生産する工場は「コンパイラ」に相当するだろう。
つまり、製造業は本質的にソフトウェア企業と同じになる。製造業の行う仕事の大半が、「情報(= CADデータ = ソースコード)」を生み出すことに費やされる。製造業が情報産業になる。
「製造」とは「設計情報」の転写であり、モノを消費するというのは設計情報を消費するということを意味するようになるだろう。


今までの日本のお家芸は「製造」だったと思う。しかし、戦場はもう「製造」から「設計」に移った。土俵が変わったのだ。設計という土俵でも、日本の製造業は強さを維持できるだろうか。

究極的なフロントローディングを実現した産業であるIT業界においては、日本の地位は非常に低い。放っておくと製造業も日本のIT業界のようになってしまうんじゃないか、と心配になる。大丈夫かな。

製造業の復興を、という話を聞いていると、必ずといってもいいほど「日本人ならではの特長を活かしたものづくり」という話が出てくる。でも現状を見る限りでは、日本人はあまり情報産業は得意ではないようだ。しかし、その苦手な分野を克服しない限り、製造業に明るい未来はないと思う。「日本人ならではの特長を・・・」なんて言ってられないんじゃないだろうか。それはむしろ、過去の「製造工程」における成功体験に引きずられて、判断を誤ることになりはしないか。

ぜひIT業界を他山の石として、製造業には頑張って欲しいものだ。僕の心配が杞憂でありますように。