受託開発再考
僕はCAD関係の開発者なので、製造業がお客さんだ。だから製造業には興味・関心がある。それで次の本を買った。
- 作者: 藤本隆宏
- 出版社/メーカー: 日本経済新聞社
- 発売日: 2004/06/01
- メディア: 単行本
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そう、もの造りの本だ。製造業の本だ。僕はお客さんのことを少し勉強しようと思ってこの本を買ったのだ。なのに、僕の頭の中では本書の内容がソフトウェア開発のビジネスモデルに繋がってしまったのだ。
結論から言うとこういうことだ。
もしあなたがソフトウェアの受託開発をしていて、いまいち儲かっていないとしたら、それは御社が「中インテグラル・外インテグラル型」だからかもしれない。
インテグラル型って何か?
本書では製造業をインテグラル型とモジュラー型に分類している。インテグラル型とは、例えば自動車産業のように、車種ごとに部品から設計しなおして擦り合わせを行い、最終製品まで統合するタイプ。対してモジュラー型とは、パソコンのように部品の寄せ集めで様々な組み合わせの製品を低コストで展開するタイプ。本書は日本は概してモジュラー型産業が苦手でインテグラル型に強いと主張している。なるほど、確かにそんな感じがする。
この分類を、社内と顧客の両方に適用する。つまり、
の2軸で分類する。すると次のような表が出来上がるわけだ。
分類表 | 顧客がインテグラル型 | 顧客がモジュラー型 |
---|---|---|
社内がインテグラル型 | 中インテグラル・外インテグラル | 中インテグラル・外モジュラー |
社内がモジュラー型 | 中モジュラー・外インテグラル | 中モジュラー・外モジュラー |
著者は「日本企業はインテグラル過剰」と指摘する。つまり社内も顧客もインテグラルな企業が多いわけだ。これは自動車メーカーの下請け企業を想像すると分かりやすい。顧客である自動車メーカーからは車種ごとにカスタマイズされた製品を要求されるし、自社内の開発も擦り合わせでやっている。そんなイメージだ。
なぜ中インテグラル・外インテグラルが儲からないか。まず社内の開発を見ると、最終製品にあわせて構成部品から設計するのだから高コストだ。その割りに、顧客からも一品ごとの要求が出るのだから一気にたくさん売れて儲かるということがない。しかも、顧客に自社の収益構造を把握されやすく、買い叩かれてしまう。
さあ、これをソフトウェア産業に当てはめるとどうか。
受託開発というのは顧客のオーダーメイドで作るわけだから、顧客との接点においては完全にインテグラル型である。では社内は、というと、これもインテグラルな場合が多いように思う。オブジェクト指向だ、再利用だ、と騒がれたが、ソフトウェア資産のモジュール化と再利用がどの程度進んでいるかは各社の状況にかなり依存するだろう。顧客の要望に対してモジュールを組み合わせで対応できる会社は限られるのではないか。要望ごとに基礎的なところからコツコツと開発していく会社が多いのではないか。
本書はいう。中インテグラル・外インテグラル型の企業は、技術力と比べてあまり儲かっていない。逆いえば、技術力はあるということだ。ただ、それに見合うだけの儲けが出ていない。別にぼろ儲けしろ、とは言わない。しかし、技術力に見合うだけの収益を求めたビジネスモデルを考えてもいいのではないか。擦り合わせ型の開発で得た技術力を、モジュラー型ビジネスに転用することを考えても良いのではないか。
僕はソフトウェア業界もそうかも、って思った。日本はソフトウェアが弱い、なんて言われるけど、たぶん技術力はそんなに負けてないよ(根拠はないけど)。だからもっと、社内のソフトウェア資産をモジュール化して顧客の要望に低コストで迅速に対応するとか、あるいはモジュラー型の顧客市場に打って出るとか、どんどん工夫していけばいいんじゃないかな。
P.S.
ただ一点、心配なのは人材が流動化していること。インテグラル型の企業が高い技術力を育てるためには、人材も流動性を低く抑えてじっくりと技術者を育てる必要があるはず。でも昨今の状況を見てると、なんだか人材だけがモジュラー化してしまうような感じだね。