渋滞学

渋滞学 (新潮選書)

渋滞学 (新潮選書)

これは面白かった!
こういう分野横断的な話は私好み。今まで無関係と思っていた複数の分野が、「渋滞」という一つの視点で結び付けられていく。思わず「なるほど!」と膝を打つような爽快感がある。
そう、渋滞とは車だけの問題ではないのだ。人の混雑、アリの行列、インターネットにおけるパケットの輻輳(ふくそう)問題、電車やバスのダンゴ運行、流れ作業の渋滞を回避するセル生産方式、などその適用分野は多岐にわたる。これら多くの分野を「渋滞」という一つの視点で切っていく手法は実に面白く、今後の研究にも成果を期待したい。

私は第1章冒頭で思わず「あっ」と声をあげそうになった。学生時代に思った疑問がそのまま書かれていたからだ。
水は管が細いほうが速く流れる。ホースの先を細く閉じれば水は勢いよく飛び出す。しかし、車の挙動は全く正反対だ。車線が急に狭まったらそこで渋滞が発生して流れは当然遅くなる。何故水と車で挙動は正反対になるのか。
流体力学を学んだ方はご存知だと思うが、実は超音速の流れでは菅が細くなると流れは遅くなるのだ。逆に菅を広げると流れは加速する。ロケットの打ち上げの映像などを見ると、ロケットの底部に付いた釣り鐘のような吹き出し口から炎が噴き出している様子が映し出される。これは超音速に加速された熱流体が吹き出し口でさらに加速されるように作られた形状なのだ。
私も学生時代、車の渋滞の挙動を超音速流の流体力学をメタファとして説明できないか、色々と考えをめぐらせた経験がある。まず音速とは、流れを構成する粒子の粗密波が伝わる速度のことだ。だから超音速流とは、粗密波の伝達速度よりも速い流れということになる。では車の音速って何か。それは例えばこう考えはどうだろう。赤信号で車が何台も停車している状況で、信号が青に切り替わると先頭の車から順に前へ進み始める。「先頭から順に」という点がキモで、最後尾の車は信号が青になってもすぐには発車できない。発車の波が先頭から最後尾まで伝わってくるのを待たないと発車できないのだ。この発車の波の伝達速度を車の音速と考える。そう考えると、例えば高速道路での車の流れは明らかに超音速流である。だから車線の減少で車が渋滞するのは流体力学とも矛盾しない、というわけだ。
以上は私の学生時代の妄想の産物であり、そんなことを考えたことも忘れていたのだが、本書の第1章を読んで「同じことを考える人はいるもんだなぁ」と思わずニヤニヤしてしまった。
しかし流体力学のメタファは冒頭だけであり、大半はセルオートマトン法によるモデル化が主役となっている。これは私は全く思いつかなかったモデル化であり、そのシンプルさと導き出される結果に思わず興奮させられる。特に本書で重要な役割を担うASEPモデルは実にシンプルなモデルで、数式は一切使わず図だけで理解できるほどのシンプルさにも関わらず、そこから多くの知見が導出できる。
普段はイライラさせられる渋滞だが、科学の目で観察して逆に楽しめるようにしてくれる(かもしれない)一冊だ。